Multiple Thinking

マルティプル・シンキングは、ロジカル・シンキングとラテラル・シンキングを同じひとつの問題解決プロセスの中で統合的に用いる思考方法として、ジャパン インキュベーションが構造化したメタ・ストラクチャーです。

※当ページでは、その概略をご紹介します。掲載している図表も簡略版であり、実際のフレームワークやプロセスは、より詳細なものとなっております。ボリュームが多く、全てを当ページに掲載できませんが、詳細はワークショップでご紹介しています。

ビジネスの世界で言うロジカル・シンキングとは、「原因と結果」、「課題と施策」などを、ツリー構造(ロジック・ツリー/オプション・ツリー/イシュー・ツリー)などを用いて論理的整合性を重視して考えることを指します。この思考方法は、その性格上“誰がやっても似たような結論になりやすい”という特徴があります。その結果、企業の競争においては、ロジカル・シンキングに過度に依存すると差別化をもたらすことが難しくなってしまいます。かと言って、勘に頼って意志決定するわけにもいきません。

そのような事情から、昨今注目され始めているのがラテラル・シンキング(水平思考)と言われるものです。ラテラル・シンキングは、独創的な発想を一定のプロセスにしたがって導出する優れたな思考法で、イノベーションや画期的な解決を導くのに非常に効果を発揮します。

この思考法は、論理的整合性を追って論理展開していくのではなく、まず、一瞬“ひねくれ”ともとられかねない非論理的な思考のジャンプを最初に行い、意図的に論理的断絶を作ります。そして、その要素をキープしつつ、最終的に論理的整合性のとれる状態というのはどのような状態かを考えます。そのためには、なんらかの変更を加えます。それがソリューション(解)となります。

ラテラル・シンキングの代表的ツールとして、SCAMPERという強制的に発想を促す思考操作があります。SCAMPERとは、各思考操作の英語の頭文字をとったものです。

  • Substitute:代用
  • Combine:結合
  • Adapt:応用
  • Modify/Magnify:変更/拡大
  • Put to other purpose/uses:目的・用途の変更
  • Eliminate/Minify:除去(削除)/縮小
  • Reverse/Rearrange:逆転/再配列

問題としている事象のフォーカスした部分にSCAMPERのうちのどれかを当てはめて非論理的ジャンプをして論理的断絶をつくり、そこから論理的整合性がとれるような解を導き出します。

ラテラル・シンキングの具体的な例を、F.コトラーらの例を参考に、花を題材として考えてみます。2052

たとえば、花という製品に対し、何らかの改良ないしイノベーションをしたいと考えているとします。そこで、花に関する重要な特徴を挙げます。ここでは、「枯れる」という特徴に注目します。そして、「枯れる」という特徴をSCAMPER(水平移動)します。ここでは、Reverseを当てはめて「枯れない」とします。ここで、論理的断絶が生まれます。この断絶をコトラーらは“ギャップ”と呼んでいます。この論理的断絶が埋まり、論理的整合性がとれた状態が“解決”です。そのようなものは何か・・・と考え、たとえば“プリザード・フラワー”という製品が生まれます。

2053実際にあったラテラル・シンキングの成功例として、広告史上で語り継がれる米国のケチャップ業界の話があります。ある伝統的なケチャップ・メーカーがあり、そのメーカーはいつしかシェアの低下に苦しむようになりました。そのメーカーは19世紀の創業以来、伝統的なビン入りのパッケージにこだわっていたのですが、競合他社はチューブ式のパッケージを採用していました。ビン入りのパッケージは、中身を出すのが大変で、明らかにチューブ式に比べて使い勝手において劣っていました。通常の直線的な因果思考では、競合からシェアを奪還するためには、「パッケージが原因でシェア低迷に陥ったのだから、自社もチューブ式にしよう」と考えるのが当然のように思われます。しかし、そのためにはトレード・マークのビンのパッケージを捨てることを意味しました。それを避けてビンを使い続けるには、濃厚なケチャップを捨てて液体状のケチャップに変えなければならない、と思われました。しかし、それでは肝心の味が犠牲になってしまいます。そこで、ラテラル・シンキングの出番です。ラテラル・シンキングでは、先に述べたような直線的思考はしません。まず、「ビン入りのパッケージはダメだ」をReverseして、「ビン入りのパッケージは良い」と、一見非合理なジャンプをします。そして、「使い勝手が悪い」ことと「ビン入りのパッケージは良い」の整合性をもたせる解を見出します。このメーカーが導き出した解は、「当社のケチャップが振ってもなかなか出てこないのは、それだけトマトをふんだんに使っているからです」という内容のキャンペーンでした。さらには、同社のケチャップを塗ったホットドックをジェットコースターに持ち込んで走らせてもケチャップが落ちないという映像を流しました。こうして、消費者からは「ビン入りパッケージ=トマトの濃厚さの証」というイメージと理解を獲得し、シェアを回復したのでした。

さて、このラテラル・シンキングですが、関連書では“ロジカル・シンキングの対局にある思考法”という解説がなされています。しかし、実はラテラル・シンキングとロジカル・シンキングは、ひとつの問題解決において一緒に用いることで、“高い精度を担保しつつも革新的”な優れた解を導くことが可能となります。このことに関してはこれまであまり触れられて来ず、ラテラル・シンキングはロジカル・シンキングとは別個に用いるものだという誤解がなされています。また、有効なフレームワークが提示されてこなかったことも、効果的な導入・実践がなされていない一因とも言えます。

ジャパン・インキュベーションでは、ロジカル・シンキングとラテラル・シンキングを統合し、マルティプル・シンキングとして構造化しています。マルティプル・シンキングでは、従来のロジック・ツリーとSCAMPERを中心とするラテラル・シンキング(水平思考)を統合しています。

①    まず、前提や課題そのものが、本当にそれでいいのか、多角的に検討します。これには“現象学的還元”が最も適していますが、多角的な視点をMECEに満たせるフレームワークも有効です。ここでは、3Cのフレームワーク(Customer/Company/Competitor)を視点として用いています。

②    ツリーの同一階層は、MECE(モレ・ダブリが無い状態)になるようにします。

③    ツリーの上流への深堀と下流への展開が十分になされていて、中間の抜け落ちも無いようにします。

④    ソリューション・レベルへの展開において、SCAMPERのようなラテラル・シンキングを用いて、飛躍的・独創的なオプションを見出します。

従来のラテラル・シンキングの理解では、創造的問題解決を導くためには「ロジカル・シンキングをやめて、ラテラル・シンキングへと切り替える」というイメージが根強かったのですが、図の例でもわかるように、チューブにするか、中身を液体にするか、という視点は、マーケティング4Pで言うProduct(4Cで言えば、Customer Value/Solution)、すなわち製品政策に該当します。そして、「トマトをふんだんに使っているからです」というキャンペーンは、4PのPromotion(4Cで言えば、Communication)に当たります。競争相手からのシェア奪回という“競争戦略”という視点のみから考えるのではなく、「消費者からの支持を得るには?」という消費者視点でも検討をすることができれば、短絡的にシェア奪回へとすぐに目を向けるのではなく、中間オプションとしてマーケティングのフレームワークをMECEに検討する発想も出てくるかもしれません。4P/4Cという視点が出てくれば、先に挙げていたパッケージを変えるか、中身を変えるか、というオプションは、4P/4C政策の中の製品政策というたったひとつのオプションの中でしか考えていなかったことがわかります。であるならば、残りの3つのPないしCについて検討すれば、それ以外のソリューション候補が出てくるはずです。最終的に「トマトをふんだんに使っているからです」という優れた解を必然的に導けるとは限りませんが、すくなくともロジカルに論理展開することで、そのような解に近づくことができます。したがって、従来のラテラル・シンキング解釈のように、ロジカル・シンキングをやめて一気にラテラル・シンキングで攻める、と考えるのではなく、ラテラル・シンキングはロジカル・シンキングにある程度融合的に組み込まれ、その上でさらに最終的に画期的なソリューションを導く際にはあらためてSCAMPERのようなジャンプをするためのツールを用いるのです。